旅館篇 第9話

 

坂本さんに案内されて車で、漁港に向かう。車で30分。汐の香りが濃くなってくる。港を

散歩してから、予約しておいた割烹旅館で浜鍋を頂く。お店の人は「鯛とか、ひらめも美

味しいですけど、本当に美味しいのは岩礁についた海藻を食べている小あじとか赤べらと

か、そういう小魚なんですよ。都会の人たちはご存知ないかもしれませんが、養殖物とは

全然違います」

「坂本さんもご一緒にいかがかしら」

「そうそう、気がつかなくて失礼しました」

昼食の後、漁師の三崎さんのお宅に伺い、お話を聞く。

「ぼくも実は漁師になりたいと思った時期があったんだ。海原を見ながら生活したい、そ

う思った。」小女子の佃煮と玄米茶を三崎さんの奥さんが出してくれた。

旅館に戻り、暫し昼寝。

坂本さんは午前中の出来事を携帯電話で報告している。

 

隣の陶芸教室を東條様ご夫妻が訪れた。お二人は自分達で夫婦茶碗を作った後、窯で焼い

て貰う間、息子夫婦と娘夫婦にお土産の湯飲みを買い求めていた。絵付けをしているとこ

ろを坂本さんがデジカメで撮影している。

 

旅館に戻ってきてからご夫妻は早速お風呂に入った。風呂から上がり、暫く部屋でテレビ

を見ながら休息。

 

夕食は旅館の板前さんが腕を振るったおまかせの海の幸、山の幸料理。素食料理も

板前さんから「今晩のお料理の中に野菜で作ったアワビとお刺身があります。是非お試し

ください。台湾では野菜中心の食事をなさる方のために「素食レストラン」もあると聞い

ています。」添え書きがあった。

 

夕食後、車で星が丘に行き煌めく星座を見た。戻ってきたら、旅館で出し物があると

のことで舞台のある部屋に向かう。旅館の舞台で地元の民謡と筝曲の演奏。地元の保

存会の皆さんが長く歌い継がれてきた歌を笛の音に併せて歌う。メンバーの中

に農家の高橋さんの奥さん、漁師の三崎さんの奥さんの顔が見える。リーダーら

しき人がご挨拶をした。

そのあと筝が運ばれ、女将と従業員の女性達が「秋の曲」と「新高砂」を演奏した。

 

部屋に戻り、くつろいでいると女将が部屋に来て、恭しく2通の手紙を差し出した。

お子様達から託されたお手紙です。従業員がお茶を運んできた。