第6話 自主廃業のための業務開始

メインバンクの担当課長からは御社は他社に比べ資産が多い。解散決断の最大の理由は何ですか、との質問。顧問税理士作成の純資産計算書を提出し、償却できずにいる不良資産、また積みあがった処分の目途の経たない不良在庫について説明した。当社の現在の営業力、商品また高齢化した人材ではこの難局なとても乗り切れない。できることなら皆さんにご迷惑を掛けることのないようにしたい。担当課長からは今月末の資金繰りについては両建てを外して定期預金を充当することを考えましょう、とのことだった。顧問税理士より①資産売却➁社員の問題(任意清算でないと社員の退職金が払えない)と2つが気がかりの点との指摘があり、担当課長からは任意清算の場合、「期限の利益」という条項があるが、「そこまでやるか」ということもあるし、また下位銀行に対してメインの立場、責任もある。B銀行、C銀行には取締役会決議後、早急に説明に行った方がいい。

 

またK商事さんには土地担保解除手続きのために早急に説明しておく必要がある。特に今迄融資の面で協力的だったB銀行さんには早く話した方がいい。A銀行系の不動産会社の担当者には全資産に購入先をあたるように(清算には触れずに)、当支店として連絡する。彼も銀行出身だから良く分かっているでしょう、とのことだった。私の方からは8月30日の臨時拡大取締役会の開催と9月14日の臨時株主総会開催予定について報告した。近くのレストランで、3人でフォロー・ミーティングを持った。A銀行としては前向きな対応をしてくれそうだとの感触を3人とも持つことができた。期限の利益などについて意見交換した後、今後の課題、準備項目について打ち合わせた。

 

29日、千葉支店の件で地元の不動産会社のF社長に電話をかけ、千葉支店の土地と建物の売却を依頼する。あくまでリストラの一環という理由で。またC銀行の関連不動産会社の担当者に来てもらい4つの不動産物件について購入先を当たって欲しい旨頼んだ。リストラの一環という理由で。

 

30日、拡大役員会議を開き、臨時取締役会とした。議題は会社清算の件、債権債務及び純資産の件、今後の対応(営業、回収・支払及び人員体制、在庫処分などのチームの設置)について、とした。また解散を顧問弁護士、顧問税理士と3者会談で決定し、これを受けてA銀行へ報告したこと、またA銀行の反応、銀行への依頼内容について説明した。各人それぞれ発言。会議はスムースに進み、取締役会決議で解散及び臨時株主総会の招集を決定した。顧問弁護士、顧問税理士にも会議に同席して頂いた。

 

夕方千葉支店のI部長、仙台支店のK部長に状況説明。突然聞かされてビックリということだったが、意外にも2人は落ち着いていた。当社の状況だけでなく、土木建材業界の厳しさを2人とも感じているからだろうか。

私の方から、今の仕事を続けるための選択肢として可能性のある3つのケースを話した。

  • 独立して自分の会社をつくる
  • 仕入れ先に移籍する
  • 他の会社に移る

 

2人とも建設資材の業界で育ってきたが、建設資材の業界の先行きについては口を揃えて不安視していた。いわんや当社のような規模、内容ではいくら頑張ってもあと3年ぐらいがいいところではないか。仙台支店は人脈の引継ぎが難しい。また他の会社に移籍しても最初は歓迎されるかもしれないが、1~2年でポイとなるのではないか。2人とも住宅ローンが残っており、退職金をなんとかしてほしい、最後のお願いという言葉も出た。この年代(40代)の再就職を改めて考えなければならない。出費が何かと嵩む年代だ。精算には半年は最低かかるので2人に総務のT部長も加えて、月1回ぐらいのペースで検討会を持つこととした。

 

31日、2千万円の個人資産投入で、今月末の手形決済、支払関係は乗り切れる。まずは一安心。A銀行の京橋支店の当社担当課長にFAXで取締役会の決議を報告。顧問弁士、顧問税理士にもFAX。お二人にはお礼の言葉を伝えた。

A銀行の担当課長に電話を入れた。「支店長に口頭で話した。支援の方向で動いている」との返事だった。

 

A銀行関係の不動産会社の副部長が来社。5階の打ち合わせ室に上がってもらう。副部長からは昨日銀行の担当課長から呼ばれ、京橋支店に行ったとの話があった。(顧問税理士が作った「純資産調査書」に記載されている土地の評価について副部長は見解を伝えた模様。「この販売予定額は妥当か?」という質問だったのだろう。副部長は厳しいコメントをしたのではないか。

 

個々の物件について検討した。順番としては、仕入れ先の担保に入っている大きな3物件の売却の目途を早くつけること。そうすれば、A銀行も融資しやすくなるだろう。

K商事に明日面会したい旨、電話を入れアポを取る。八丁堀区民会館を予約して臨時株主総会の通知を発送した。

 

9月1日K商事のF部長のところに弊社のT取締役と一緒に報告・説明に行く。面会時間は午前9時~10時。待ち合わせ場所の喫茶店で「部長に迷惑が掛からないようにする」ということを確認。一番の問題は「なぜもっと早く相談してくれなかったのか」と言われることだ。

 

ここ1週間ぐらいで決めた。公認会計士、顧問弁護士、顧問税理士、そして社内の意見も聞いて決断した、とそのまま伝えるしかない。怒られたら甘んじて受けることにしよう。

(第6話 了)