第二の故郷物語 「親孝行プレゼント」(その3)

 

 

(三日目夜)

 

旅館に戻ってきてからご夫妻は早速お風呂に入った。風呂から上がり、暫く部屋でテレビを見ながら休息。

 

夕食は旅館の板前さんが腕を振るったおまかせの海の幸、山の幸料理。素食料理も。

板前さんから「今晩のお料理の中に野菜で作ったアワビとお刺身があります。是非お試しください。台湾では野菜中心の食事をなさる方のために「素食レストラン」もあると聞いています。」添え書きがあった。

 

夕食後、車で星が丘に行き煌めく星座を見た。戻ってきたら、旅館で出し物があるとのことで舞台のある部屋に向かう。旅館の舞台で地元の民謡と筝曲の演奏。地元の保存会の皆さんが長く歌い継がれてきた歌を笛の音に併せて歌う。メンバーの中に農家の高橋さんの奥さん、漁師の三崎さんの奥さんの顔が見える。リーダーらしき人がご挨拶をした。

そのあと筝が運ばれ、女将と従業員の女性達が「秋の曲」と「新高砂」を演奏した。

部屋に戻り、くつろいでいると女将が部屋に来て、恭しく2通の手紙を差し出した。

お子様達から託されたお手紙です。

 

長男夫婦と次男夫婦からの手紙。

 

お父さん、お母さん。旅行を楽しんでくださっていますか。少しでも恩返しをしたいと思い、今回の旅行をお勧めしました。無理をしないで、ゆっくり温泉にはいったり、美味しいものを満喫してください。

お父さん、お母さんの生き方をお手本にして私たち夫婦もこれからの人生を歩んで行きたいと思っています。

今迄私たちのためにしてくださった沢山のこと、ありがとうございます。これからも健康に気をつけて、私たちの前を歩き続けてください。

家に帰ってきたら、旅行の話を聞かせてくださいね。楽しみにしています。

修 一

幸 子

お父さん、お母さん

今頃の伊豆は木々の緑がきっと見事でしょう。温泉好きのお父さんのことを考え、兄貴と相談して今回の旅行パックを選びました。ご満足頂けていますか。

お父さんが定年で退職した後、農業を始めた時は、ちょっとびっくりしました。お父さんは半農半Xだよ。あとのXは自分のやりたい仕事、と言っていましたね。生涯現役で人生を仕上げると。

お母さん、自分の夢はお父さんの夢を叶えること、と言ってますが、お母さんご自身の夢のためにお父さんに協力して貰ってください。今迄お父さんに沢山協力してきたんですから。これからも元気で、野菜のおすそ分けもよろしくお願いします。                

健 次

めぐみ

 

東條さんご夫妻は息子さんたち夫婦からの手紙を何度も読み返していた。 

山間に霧が流れ、旅館もいつしか霧の中に沈んでいく。

 

(四日目の朝)

 

今日で旅行も終わり。朝食の後、帰り支度をする。

朝食は黄檗宗の精進料理とのこと。

出発前に女将が御点前ということで、旅館の中にある茶室に案内される。

静寂の雰囲気の中、まず京都の季節の菓子を頂く。その後で女将からここでのお作法について簡単な説明の後、お点前。

その後で女将からご挨拶。

「この度は私どもの旅館にご滞在くださり、まことにありがとうございました。ささやかではございましたが、皆様が楽しく、幸せなひと時を過ごしていただけるよう、皆でお手伝いをさせて頂きました。一期一会という言葉がございます。人生はその一期一会の積み重ねとも言います。またお会いできることを楽しみにお待ちしております。

 是非、私どもの旅館にご自宅の離れのようなお気持ちでお越しください。そして「行ってらっしゃいませ」と最後に申し上げます。ありがとうございました」

 

 ミニサロンカーが到着した。

 玄関では車の姿が見えなくなる迄、女将と従業員、坂本さんが頭を下げていた。

 

(一週間後)

 

 東條様ご夫妻のお宅に「地域コミュニケータ」の坂本さんから旅行記が送られてきた。

写真と記事の入った旅行アルバム。息子達夫婦のところに持っていって、旅の話をしよう。

行く前は計画でワクワクして、旅行中は楽しく、また旅行から帰ってきてもまた楽しめる。

三回楽しめる旅行というのは本当だ。