潜在的成長率について

 

7月23日の日経新聞朝刊の経済教室で東大教授の柳川範之氏が「供給能力の天井克服を」と題して潜在成長率を取り上げている。潜在成長率とは、生産活動に必要な全要素(資本・労働・生産性)を使った場合に、GDP(国内総生産)を生み出すのに必要な供給能力を毎年どれだけ増やせるかという指標だ。この潜在的成長率は短期的な景気循環には直接反映されず、中長期的に持続可能な経済成長率を示す。インフレなど経済を過熱させることのない範囲内で達成可能な経済成長率の上限となる。柳川氏は先進国が潜在成長率の壁に直面している原因を2つあげている。2つの領域で先進国は負けつつある。機械と新興国に。

1.機械との競争に労働者が負けつつある。ITの進展で働き場所を失う人々がどのように して新しい働き場所で働けるようになるか。

2.新興国との競争に負けつつある。新興国の労働者や企業の能力が高度化している。

従い先進国がこの状況を打開するためには人材の能力開発と高度のイノベーションを実現していく経済構造の構築が求められる。

さて日本の場合は以上の2つに加えて、少子高齢化という構造的な問題がある。柳川氏は潜在的成長率の要素の一つである労働力の増強について、女性の社会進出と高齢者の働き場所の拡大を提案している。ここで問題になるのは業種別の就業者数の増減パターンだ。

老人福祉(15.8倍)、医療業、道路貨物運送業、学術研究機関は増えているが、道路旅客運送業、鉄鋼業、農業、家事サービス業(-80%)は減少している。

今後日本はどのような進路を辿ることになるのだろうか。経済成長期はある意味で「成り行き任せ」でも良かったのだろう。そこでは自然淘汰の原則が全体を調整していたのかもしれない。しかし経済の成熟期にはやはり価値創造と価値の利益への転換が鍵を握るのではないか。資本、労働力、生産性の全要素を融合して新しい価値、人間中心のイノベーションを持続的に実現していくことが日本の生きる道ではないかと思う。その意味で多種多様なビジネスモデルは少なからぬ貢献をすることができるはずだ。