「日本人の叡智」

  

新宿で友人と待ち合わせまで暫く時間があったので、地下街の本屋を覗いた。そこで磯田道史さんの本を見つけた。それが「日本人の叡智」(新潮新書)だった。磯田氏の話はNHKの遡り日本史で時々聞いていたこともあり、早速購入した。慶長年間から平成まで、98人が取り上げられている。さて例によって「はじめに」を読んで、久し振りに新鮮な感動を覚えた。次のような磯田の言葉だ。「書庫の中でみた日本人の叡智の蓄積は想像を絶するものであった。津々浦々に、けっして教科書には書かれない埋もれた人物が、山のごとくいた。記されていた言葉は海のごとく広くそして深かった。」「ここに書かれている人達は、偶然、私が書庫のなかで出会ったというだけのことである。この国には、まさに砂漠の砂、天空の星のごとく、きらきら光るたくさんの人物がいた」「日本人の叡智というのは、今を生きる日本人にとっての叡智になってほしいとの願いからつけられた」私はこの本を読みながらあたかも「宝石箱」をあけて、一つひとつ、それぞれ世界に一つしかない宝石を手に取って、その輝きに感動でこころが震えるような思いで見ている。そして先人のこの宝石のような言葉を咀嚼しながら私自身を更に磨いていきたい、との思いにも駆られる。旧仙台藩の【穀田屋十三郎】の個所はビジネスモデル的に考えても誠に示唆に富む。吉岡宿が新しい基金制度をつくり、宿場町を守った仕組は現在にも通用する考えだ。穀田屋十三郎は次のように言ったという。「一粒の花の種は、地中に朽ちず、終に千林の梢に登ると謂ふ事も候へ」(一粒の花の種から千本の林ができ、梢一面に花を咲かせることもある。まず我々二人が心を鉄石にしてこれを成就しよう)(宮城吉岡宿「国恩記」)「吉岡宿の人々は維新までこの基金の恩恵を受け続けたという」。NHKのプロジェクトXの中島みゆきの歌ではないが、日本には後世の人々には忘れられた「地上の星」が銀河のように輝いていたに違いない。