アリス・ウオータースの革命

 

「美味しい革命-アリス・ウオータースとシェ・パニーズの人々」のエピローグは「全世界へのミッション」となっている。アリスはこう語っている。「スローフードについての私の希望は、これから10年間の間に、世界中のあらゆる国で変革の力になっていくことです。私にとってのスローフードとは、地球規模でものごとを考える原動力です。もうアメリカ合衆国のことだけを考える時代ではありません。この地球規模で考えるのです。全地球への提案です」。またこうも言っている。「私はこれから10年は公立学校教育に専心したいと思います」。まさに着眼大局、着手小局だ。ところであらゆる国の中の日本のスローフードの現状はどのようになっているだろうか。このエピローグを読んでいて感心したのは、食材の調達方法についての<良心>だ。シェ・パニーズは魚介類の調達方法について重要な方針を持っている。魚介類にもレッドリストの属するものがある。たとえばアトランティック・ゴッド(鱈の一種)。シェ・パニーズは釣り針と釣り糸で少量の魚を漁師と契約をしているモントレー社からゴッドを購入している。またアンコウについては海底のエコシステムを破壊しない方法で獲ったものを使っている。シェ・パニーズは「ここでサーブしている魚についてはかなり正しい方法で捕られたものという自信」を持っているとのことだ。牛肉についても牧草で育った、人道的に飼育され、食肉化された牛を探して、使っている。アリスが大事にしているのは持続可能な、正しい食材の確保と伝統的な食事だ。今、私たちはこの世界の資源が無限ではなく、有限であり、地球の資産を食い潰すことではなく、地球の所得、つまり循環的の毎年産み出されるもので生活しなければならない、ということに気付き始めている。アリスは食の世界で従来の常識に挑戦し、パラダイムを変えていこうとしている。

あとがきで訳者の荻原治子氏はこう書き記している。「誰もが望む、誰もが参加できる普遍的なテーマを実現させるのが“革命”なのだと思います」これは革命についての新しい定義かもしれない。

日本では現在、食品の偽装問題が広がっている。食材がどのように獲られ、また育てられているか、そこまで考えている高級レストランがどれほどあるか。日本でも美味しい革命を起こさなければ、と思う。これは一方で消費者の意識転換の活動にもつながっていく。消費者も正しく、賢くならなければならない。そして実践。そうでなければ、美味しくて、健康的な食事は「絵にかいた餅」になってしまう。