イエスの誕生‐もう一つのストーリー
イエスの誕生物語には羊飼いと3人の博士が登場する。クリスマスの絵にもその様子を描いたものが多い。ところが羊飼いと3人の博士がイエスを見たのはそれぞれ別の時期だった。誕生直後は羊飼い、3人の博士はイエスが1歳を過ぎた幼子の時だった。博士達がイエスに出会った後、悲劇が起る。当時のヘロデ王は博士達が言う「ユダヤ人の王として生まれた子」を恐れ、ベツレヘムとその近辺の2歳以下の男の子を一人残らず殺させた。イエスは難を逃れてエジプトにいた。マタイの福音書ではこの殺戮も預言の成就を理解する。
さて私は思うのだが、イエスは後になってこの事実を母親かあるいはベツレヘムか近辺に住む人から聞かされたのではないか。言い換えれば自分の代わりに、自分のために多くの子供たちが殺された、ということを。私が思い巡らすことは3つある。
一つはなぜマタイはこの事実を書き記したのか。預言の成就だけではないような気がしている。ユダヤ人ではないヘロデ大王に対する非難もこめられているのか。
もう一つはこの事実を知ったイエスがそれをどのように受け止めたか、ということである。
最後に母マリアだ。ユダヤという民族世界の中で、ことの経緯はユダヤ社会にひろく伝えられたことだろう。マリアは同胞から厳しい眼差しを受けたのではないか。「あなたの息子のために私達の子供たちは殺されたのだ」と。そのような視線をうけながらイエスを育てあげたマリアにもっと目を向けたい。