ビジネスモデルの失敗? インド「ナノ」自動車
12月4日付けの日本経済新聞朝刊の小さなコラム「Voice」に注目すべき記事が載っていた。それは米CNBCテレビの取材に対し2009年に10万ルピー(17万円程度)で売り出した、乗用車「ナノ」の販売戦略が失敗だったとタタ・グループのラタン・タタ名誉会長が認めた、という内容だった。当時「ナノ」はビジネスモデルの一つの注目すべき事例として取り上げられていた。私の手元に2009年春発行のダイアモンド・ハーバードビジネスレビューの記事がある。「ビジネスモデル・イノベーションの原則」。このレビューではビジネスモデル構築のステップとして3つのステップを挙げている。
1.強力なCVP(顧客価値の提供)
2.利益方程式
3.新しいビジネスモデルを既存のビジネスモデルと比較する
タタ・モーターズの当時の取り組みについては以下のように説明されていた。「ナノにおけるCVPと利益程式の要件を満たすためには、設計や製造、流通のあり方を一から見直さなければならなかった」タタ・モーターズはこのために若手のエンジニアのチームをつくり、製造ラインの方ではモジュール化したコンポーネントを自社工場と外部工場に流し、そこでBTO(受注製造)するという究極の計画であった。レビューでは「結果が出るにはまだ時間がかかるが、ラタン・タタはこれによって交通安全の問題も解決するかもしれない」と結んでいる。それから4年後の現在。月間販売台数は一時1万台を超えたが、発火事故が相次ぎ、最近は2000台程度で推移。「貧困層向けの粗末な車」というイメージが逆に染み付いてしまった。名誉会長は述べている。「『ナノ』を世界最安の車として売り込んだのは、残念ながら不幸だった。今後は改良車を欧州で発売する」
さてこの場合一番重要な、強力なCVP(顧客価値の提供)はどうなるのだろうか。