自主廃業について(2) 撤退戦の戦い方

 

 2012.3.5

 

前回の記事で「代表世話人は撤退戦の先頭に立ちます」と書きました。倒産の場合、債権者集会が終ると倒産処理は弁護士の手に委ねられますが、自主廃業の場合は、代表清算人が自分自身ですべてのことを行うことになります。主な業務としては、

・取引銀行への説明

・仕入れ先、得意先への説明

・不動産の処分

・社員、役員への退職金の支払及び再就職斡旋

・株主に対する株式の買い戻し

・契約書関係の解約手続き

・毎月、毎週、毎日の資金繰り

・取引銀行、仕入先への経過報告

・営業権の譲渡交渉

 

などがあります。

平時であれば、それぞれの担当者が行う業務であっても、解散業務では代表清算人の責任の下に一切を行う必要があります。例えば不動産の処分を取り上げてみましょう。平時であれば、適正な価格での処分ということになりますが、解散業務時では自主廃業を実現するための原資を確保するということが目的になります。解散を公にしますと、当然足元を見られることになります。妥当な価格であれば即断即決してチャンスを逃さないようにしなければなりません。一旦引き合いの波が来ますが、それを見送った後はなかなか次の波が来ないという恐れもあります。私の場合はいくつかの不動産物件があり、その中の一番大きな物件が早々に決まりかけましたが、契約前に話が流れてしまい、その後なかなか「これは」、という話が来ませんでした。大きな物件が妥当な価格で処分できないと自主廃業が出来ませんので、これは大きなストレスでした。もう駄目か、と思い始めていた時に、買い希望のファックスが入り、その価格が私が設定していた価格ゾーンの中にギリギリで入っていましたので、直ちに交渉に入り、紆余曲折がありましたが、無事売却することができました。

その頃は社員も少なくなっていて、私自身が事務処理一切を行いました。

解散時には30人以上の社員がいましたが、それぞれの業務が完了する都度、社員は新しい会社に移っていきました。茨城と大阪に在庫センターを持っていましたので、在庫処分は最後迄かかりましたが、最後の1円迄清算しました。

 

撤退戦は戦いですから、戦う意思を持って業務に取り組むことが肝心です。解散が決まっている社員にそれを求めるのは筋違いでしょう。「銀行、仕入れ先、得意先、関係先にご迷惑をかけない」という意思を持つことができるのは、前社長、現代表清算人だけです。

常に先頭に立ち、モチベーションを持って戦えるのは代表精算人だけです。自主廃業が実現できなければ、倒産となり、銀行に保証を入れている代表精算人は自分自身の不動産、預金を失うことになります。また社員には「倒産企業の社員」という烙印を押させることになります。

撤退戦を最後迄やり抜く、それも先頭に立って戦い続ける、その気持が大切です。但しそのためには一つの前提がなければなりません。

それは自社の事業活動の全局と今後の可能性を絶えず見ながら、「見切りをつける」という

ことです。どのような状況になった時、見切りをつけるか、これは極めて難しい判断です。

「見切り千両」という格言があるくらいです。

撤退できる、という望みがなければ撤退戦を戦い抜くことは代表清算人と言えども本当に辛い業務になります。

再起の可能性を担保するためにもこの「見切り」という選択は非常に大事です。

次回はこの見切りについて述べます。                    (続く)