ビジョンと具体的施策をつなげ、ビジョンを担保するビジネスモデル

 

財団法人日本開発構想研究所の研究主幹 橋本 武氏が歴代総理大臣の国土ビジョンを読む・その2で大平元首相の「田園都市国家の構想」を取り上げている。橋本氏は「理念と具体の施策の落差の大きさに驚く」と述べている。理念はあるべき姿からトップダウンで作成され、施策は現実の制約条件を重視してボトムアップで作成される傾向があり、この落差を縮小するためには「戦略的施策」が解決策になると提案している。「田園都市国家の構想を計画としてみると、理念と個別施策の中間に位置する、この戦略的施策が極めて弱い、むしろ存在しないといえる」と厳しい指摘をしている。この「田園都市国家の構想」では「地域の主体性」が大きな柱になっている。地域の主体性を確立するために、国家として何をすべきか、その事業を円滑に支え、推進する制度はどうあるべきか、が基本的な課題になる。橋本氏によるとその後の人々の関心は事業論から制度論に移行していったとのことだ。そしてビジョンや計画はかつての輝きを失っていった。さて今日の時点に立って考えてみると、やはりこの「田園都市国家の構想」はやはり国家としての問題意識が強く、やはり上からの改革という色彩を強く感じる。時代的制約もあったのだろう。

私は国家を論じる前に<社会>の在り方、つまり今日の日本社会のリ・デザインを考えるのが先ではないかと思う。戦後の日本社会は乱暴な言い方をすれば<会社>主体で発展してきた。戦争で焦土と化した日本を復興させるためには産業の復興と食料の確保が優先課題だった。産業の復興は日本株式会社を生み出し、食料の確保のため農協は独禁法の適用外とされた。現在生存し、成長のための経済から成熟経済に移行しつつある。日本株式会社も農協も制度疲労を起こし、その役割は終焉を迎えている。今は「会社から社会」に戻る時期なのだ。新しい社会のデザインのためには多様なシナリオライターが必要だ。「田園都市国家の構想」の報告書は22名(民間学識経験者10名、関係省庁課長・課長補佐クラス12名)で作成された。地域の主体性を支え、実現の担い手になるはずの地方自治体関係者も農家も地域の産業家も研究会の構成メンバーになっていなかった。

これからの社会リ・デザインは現在の日本社会で生まれてきている多様なコミュニティ、あるいはアソシエーションを基盤として具体化され、共有されていくのではないだろうか。

コミュニティあるいはアソシエーションのような小さな規模の集団であれば、理想と具体的施策の落差は小さいはずだ。その落差を更に小さくし、理想が担保されるようにするためには、ビジネスモデルが有効だ。コミュニティ、アソシエーション・デザインとビジネスモデル、多様なビジネスモデルの共進化によって社会リ・デザインは画餅を食べられる餅に変えていくことだろう。そして日本らしい社会のV字回復も実現していくのではないか。是非そうあってほしい。