一匹のスズムシが人生を変えた

 

これは亡き森繁久弥氏の話だ。ある時、テレビを見ていたら80歳ぐらいの老人が、たくさんの弟子に囲まれ、楽しそうにスズムシの話をしている。50歳の定年間近のころ、縁日で買ってきたスズムシを孵化してみようと思った。以後そのことだけにとりつかれ、何回も失敗を重ねながら30年、気がついてみたら、スズムシの大家にされており、弟子も数百人となった。毎年弟子たちの孵化したのとあわせて、裏山に数千匹のスズムシを一度に放ち、町の人に聞いてもらうのが楽しみだという話である。森繁氏は「これだ」と思ったそうだ。(「花の熟年時代を」松木康夫)熟年時代は、第二の人生だ。今迄誰もやったことがないものに取り組んでみる、というのも面白いと松木氏は勧める。第二の人生で取り組むテーマは生涯取り組むテーマ、つまりライフワークとなる。伊能忠敬は日本地図の作成をライフワークとした。

それはまさに前人未踏の偉業となった。ライフワークは恐らく仕事を超えている。かといって趣味でもない。自分がずっとやってきた仕事をこれからも死ぬまで続ける、という生き方もあるが、それは恐らくライフワークではないのではないか。ライフワークはその人なりの人生の完成を目指すものではないだろうか。さてそれでは私の場合は何がライフワークとなっているか、と自らに問いかけてみると、江戸時代に日本型ビジネスモデルの「鉱脈」を見つける、ということになりそうだ。恐らくこの取り組みは今迄誰もやったことがないのではないか。そしてその鉱脈から掘り出すものは、私だけでなく、日本のこれからを生きる人々をもワクワクさせるものになりそうな気がしている。