一手間をかける

昔母がよく「一手間をかける」と言っていたのを思い出す。それが当時の主婦の考え方、やり方だったのだろう。安い材料でも、何か一手間を加えて、美味しい料理にする。どのような一手間を加えるか、衣食住の中で母は考えていたにちがいない。戦後の生活で、また父が始めた会社もなかなか大変で、収入面では厳しい生活だったと思うが、不思議に「貧乏だった」という思い出はない。私が一つ心がけていることは、手紙を書く時、最近ワープロで書いて出すことが多いのだが(字が下手なもので)、最後に余白に自筆で一言、二言を書くようにしている。

一手間は相手を思う気持から出ているのではないだろうか。現在仕事をマニュアル化するケースが増えてきている。無印良品のようにマニュアル化で成功している事例も多いので、それはそれで良いのかもしれないが、やはりマニュアル+αが大事かもしれない。このαを一手間と考えたらどうだろうか。相手の心に響く+αとなるためには、相手に対する共感力が求められるのではないか。

最近私の会社の屋上菜園ガーデン関係のパンフレットを改訂して新しく印刷した。デザインと印刷をお願いしたビジネスセンターの責任者の方が、思わぬ、そして嬉しい提案をしてくれた。それは「一遍に500部印刷しないで、まず100部印刷して、お客様の反応を確認して、修正するところが出てきたら、残りの400部は修正して、完成版としたらどうでしょうか」。実際100部印刷して、お客様に送ったところ、ある個所が分かりにくいというご指摘を頂いた。それで残りの400部は修正した内容で印刷することができた。これも一手間かけてくれた事例だろう。またそれは「楽しさ」づくりかもしれない。あるスーパーでクリスマスの時期にイチゴと生クリーム、柔らかいチョコを使って小さなサンタ人形をつくる方法を易しく図解して貼紙にして出したところ、イチゴの売上が前年の3倍に増えたとのことだ。いろいろな分野で「一手間」をかけてみたらどうだろうか。