一歩引く潔さ・責任を取る

 

バルチック艦隊を撃滅した日本海海戦では東郷聨合艦隊司令長官と、参謀秋山真之が有名だが、第二艦隊第二戦隊司令官島村速雄少将も忘れられてはならない人物だ。詳しくは中村彰彦著の「海将伝」を読んで頂きたいが、私が島村の人となりに触れたのは、海上に投げ出されたロシア兵を日没前に可能な限り救助しようとしたことと、旅順港閉塞の失敗や黄海海戦での駆逐艦の夜襲失敗などの責任を合わせとって参謀長を辞任し、第二艦隊第二戦隊司令官に転出したのではないかと言われていることである。東郷司令長官を代えるわけにはいかない。しかし誰かが責任を取らなければならない。ならば自分が取ろうという訳である。そして決定的瞬間での揺るがぬ確信は、バルチック艦隊のルート、つまり対馬水道を通ると断言したことに表れている。NHKの「坂の上の雲」では舘ひろしが島村を演じていた。もうひとりは山梨勝之進。海軍次官の時、ロンドン軍縮条約締結に尽力、その結果海軍の省益には反するとして顕職を追われた。後に山梨はこう述べている。「軍縮のような大問題は犠牲なしに決まりません。自分がその犠牲になるつもりでやったのだから、今日の境遇になったことは少しも怪しむべきではありません」自分が責任をとる。何という潔さであろうか。明治の人間には武士の血が流れていた。私たちはこの美風を忘れてはならないだろう。それにしても明治は魅力的な人物を多数輩出した時代だったのだ。