三方良しと45/55

最近中国、アジア諸国で「三方良し」のセミナーが開催され、注目を集めている。今年2月23日、一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA)と大阪産業創造館が大阪市で開いたセミナーにタイの中堅・中小企業の経営者が参加。テーマは「日本の長寿企業」。セミナーの後、タイ人経営者が「バントー」とか「サンポウヨシ」を口々の呟いていたとのことだ。(日本経済新聞 3月30日朝刊 「経営の視点」)

私は以前から日本型ビジネスモデルのいわば「在来種」として近江商人の「三方良し」に関心を寄せ、現代において温故知新の精神で研究している。「三方良し」とは売り手よし、買い手よし、世間よしだ。最近では世間よしは企業のCSRの源流との考え方も出てきている。さて売り手よし、買い手よしについて最近思うのはその目的とバランスだ。買い手よしの中には適正な利益確保ということがあるだろうが、何のために適正な利益を確保するかと言えばそれは事業の永続性を担保するということが第一に考えられる。事業の永続性のために何か必要かとなると何をおいてもまず人の育成だろう。人が育つ中で活きた知識、技術も集積・進化していく。一方買い手よしについてはやはり顧客の問題解決、顧客の生活向上が具体的内容になっていく。最近では顧客に価値を提供することが重要な課題であるとも言われる。

さて45/55について。以前ある私鉄鉄道会社の、今は亡き副社長Oさんとあるご縁で親しくさせて頂いたことがある。社運をかけた重要かつ困難を極める事業をやり遂げた方だ。その訓えの中で今でも私の心に残っている言葉がある。それは「交渉毎はこちらが一歩引くところでまとめるのがベストであり、自分たちにとって有利な条件でまとまった場合は後から崩れることが多い。」言い換えれば相手が自分達にとって有利な条件でまとまったと思う場合、相手から崩してくることはない。自分達、あるいは自社の内部条件は自分達で努力すれば調整可能だが、相手の条件は調整できない。このあたりの呼吸を教えてくださった。それを私流に数字で表現すると45/55ということになる。

企業にとって大事なことは永続性と人材の育成、社会に対して価値を提供し続けることのできる仕組み、その仕組みを構成する知識と経験と技術の集積を措いて他にはない。

中国、韓国、東南アジアで100年以上続く企業は何社あるだろうか。日本経済新聞「経営の視点」によれば、例えば韓国の場合僅か7社。一方日本は2万7335社。日本の長寿企業を支えている力は何か。それは拡大より存続を重視し、従業員や取引先との関係を重視、企業形態はファミリービジネスと指摘されている。勿論ファミリーもスモールファミリーからビッグファミリーと規模の大小はあるが、基本は「ファミリー」だ。これからは従業員と経営者の近い関係、また顧客との近い関係がますます重要性を持ってくるのではないか。