中小企業と個人保証

 

中小企業向けの融資の8割には現在経営者の個人保証がついているとのことだ。この個人保証を巡って金融機関と中小企業経営者の間で意見が対立している。国税庁によると法人企業257万社のうち7割は赤字であり、その中で中小企業の7~8割は赤字と推測されている。金融機関が中小企業の経営者に個人保証を求めるのは赤字で小規模であれば当然との声もあるが、このような状況下で今年5月中小企業庁と金融庁が個人保証のあり方についてガイドラインを発表し、一定の条件を満たす中小企業には個人保証を求めないという考えを打ち出した。いろいろな考えあるいはケースもあることと思うが、ここでは1つのことだけに絞って考えてみたい。なぜ日本では257万社のうち7割が赤字になるのであろうか。一方黒字の会社とはどんな会社なのか。私には利益の偏在、不公平な構造にも

原因が求められるように思われる。日本では大企業の下請けで生きている中小企業が多い。

一つの例を挙げたい。東京電力の送電線工事をやってきた工事会社が数多くあるが、上場しているのは日本工営と関電工ぐらいで、あとは殆ど中小企業だ。これらの工事会社は送電線の工事一本でやってきており、東京電力の発注に依存して生きてきた。私が以前経営していた会社はこのような工事会社に資材を販売していた。東京電力は結局これらの工事会社、それに資材販売会社には「生かさぬよう殺さぬよう」という姿勢で臨んできたのではないだろうか。送電線工事の減少に伴い、工事会社を東京電力主導で統合していったが、ここには2つ問題があると私は感じていた。

一つは中小企業にとっても人材の確保・育成は欠かすことのできない重要な課題だが、そのためには人材育成のための原資も必要になるが、そのための利益を東京電力は工事会社に与えただろうか。結果として工事会社の作業員の急速な高齢化を招いた。これからは送電線網のメンテナンスが重要な課題となる。送電線の鉄塔に登り、また送電線を伝わって移動・作業するという危険度の高い仕事だ。工事会社の高齢者が次々と退職していったら、一体誰がメンテナンスをするのだろうか。話は飛ぶが福島原子力発電所の廃炉作業にあたっている工事会社、下請企業も同じような状況にあるのではないか。メンテンスがきちんとできなければ電力の安定供給に支障が出てくることは避けられないだろう。廃炉作業を40年間にわたってやり遂げる作業員が確保できるだろうか。

もう一つは日本の企業構造全体の問題だ。下請に過度の値引き、無理な価格を押し付けないようにするための下請法があるが、やはり利益の適正な分配が必要だ。適正な分配により257万社のうち7割が赤字といういびつな状態は改善されるはずだ。中小企業が大企業の犠牲になるような構造は改められなければならない。そうして中小企業が元気になることによって日本経済は本当の意味で立ち直り、強靭になっていく。利益配分を適正にするためには中小企業側の努力も求められる。大企業に100%依存していく必要の無い強みを持つべきだ。私が日本型ビジネスモデルの普及に取り組んでいるのは日本の中小企業に強くなってもらいたいためだ。日本の企業間の関係も従来のような、農業に例えたら化学肥料、化学農薬的な効率第一から、オーガニックな生態系的関係に変っていくものと思われる。安いものから価値あるものへ。変化は既に始まっている。