亡き人を偲ぶ

偲ぶという漢字を見ると象形文字の美しさを感じる。思いの傍らに人が立っている。

折りに触れて先に逝った人々のことを思う。その人の地上の人生は死で終ってしまったが、その人の思い出が映画のシーンのように甦ってくる。その時の言葉、表情が。

以前の私はその思い出に自分の身を置いて「回想」に耽ることがよくあった。その時の声が聞こえてくる。過去には二度と戻ることはできない。それが最後になるとはその時は気付かなかった。別れは突然やってくる。最近夢を見た。夜明け前の時刻、風と共にある人が私のところにやってきた。私は野原を見ていた。その人は私の前に座り、黙って私を見た。まっすぐ私を見ている。何も言わずに、かすかに微笑みながら私を見ている。私が何か言うのを待っているのだろうか、あるいはその人が私に何か言おうとして、相応しい言葉を選んでいるのだろうか。その人は何も言わないけれど、何かを伝えようとしている。その時、声が聞こえたような気がした。「私があなたに託した気持ちをあなたは受けとめていますか」。風のような声だった。私は思わず聞いた。「私に何を託してくださったのでしょうか」。その人は答えた。「あなたには託したことがあります」。自分には確かに何かが託されている、それを本当に知ることが「偲ぶ」ことなのかもしれない。偲ぶことはその託された思いを聞き続けるために、その思いの傍らに立ち続けること。そして自分もいつか偲ばれる立場になる。

その人を思い出す時、回想だけでなく、何かを託されている、という思いでその人を偲ぶことが多くなった。