今日における東郷ターンと「奮励努力」そして日本というビジネスモデル

 

 

昨年12月18日、NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」最終回「日本海海戦」を見ました。

録画したものを何回も見ていますとその都度気がつくことがあります。司馬遼太郎の原作を読んでいましたが、やはり映像の迫力を感じずにはいられません。

ドラマでは参謀秋山真之による「丁字戦法」が使われていると渡辺謙のナレーションがありますが、実際はそうでなかったようです。

昭和40年代に研究者に公開された「極秘明治三十七八海戦史」によると、丁字戦法も使えず、連携機雷も波が高くて水雷艇も出動できず放棄を余儀され、連合艦隊に残された道は、正面からの艦隊決戦のみになったとのことです。さらに大きな誤算はバルチック艦隊の位置が間違って報告されたことです。そのようなぎりぎりの状況下で東郷司令長官は敵の射程距離内での敵前大回頭、「東郷ターン」を行ったのです。

艦橋に立つ東郷長官は自分の死を覚悟していたと思いますが、と同時に矛盾するかもしれませんが、この戦(いくさ)が終わる迄自分は絶対に死なないと言う確信があったのではないでしょうか。その確信は「闘魂」に支えられていたように思うのです。

 

さてその後で野田首相の内閣改造にあたっての記者会見をテレビ中継でみました。野田首相は原稿を見ずに記者団のそれぞれの質問に答えていましたが、その際、私が感じたことは記者団の質問に対して、首相は次元の異なる回答をしていたということです。一言で表現すれば戦術的質問に対して戦略的に答えていた、と私は受け止めました。特に響いたのは次のくだりです。以下日本経済新聞14日朝刊からの抜粋です。

「・これからの国会は民主党政権よりも日本にとっての正念場だ。

 ・国民の歓心を買う政治ではなく、つらいテーマでもしっかり訴えて理解いただける政治を日本でつくれるか正念場だ。

 ・内外の時代状況をしっかりにらみ、今何をしなければいけないかをきちっと答えられる政治を実現していきたい。

 ・マニフェストに書いてなかったが内外の情勢を俯瞰した時に決断しなければいけないテーマが出てきている。」

記事にはなっていませんでしたが、野田首相は、今は蟻の目だけではなく鳥の目を持たな

ければならない時代状況なのだということを自分に言い聞かせるように、また新聞記者連

に諭すように説明していました。

全局を俯瞰し、すぐそこまで来ている危機に対する態勢固めをしなければならない、それ

こそが日本を守る道なのだと訴えていました。

私の個人的思いは、民主党によくぞこのような政治家が残っていた、野田首相にはどじょ

うのように泥臭く、蟻のように勤勉で、鷲のような大局観を持った政治をしてほしいとい

うことに尽きます。

現在の世界はまさに複雑系の様相を呈しています。それぞれの立場の人達がそれぞれの主

張、要求をします。そのような要求にいちいち答えていくと、収拾がつかなくなります。

覚悟を決めて根本的課題に向き合うことが大切です。その場合でも批判、妨害を絶えず受

けることになるでしょう。批判が止むことはないはずです。

ここで重要なことは根本的課題の設定とその問題意識を共有していくための努力です。

東郷長官は皇国の興廃はこの一戦にありと定義しました。満州軍総司令官の大山長官は

奉天会戦は関ヶ原と定義しました。二人ともこの戦に負ければ日本は滅亡する。何として

も勝たなければならない、日本国を背中に負って戦ったのです。

 

戦艦三笠は敵前回頭の際、十九発の命中弾を受け、まるで一個のドラムに化したと伝えられていますが、致命的な被害は受けませんでした。まさに天佑神助だったのでしょう。

 

野田首相もこれから多くの命中弾を受けることでしょう。野田首相にとってはバルチック艦隊は民主党であり、自民党を初めとした野党、マスコミ、そして国民です。

 

国民は日本の将来を憂えています。しかし一方で消費税は上げてほしくないが、社会保障は十分にやってほしいというという個人主義な意識を強く持っています。さらに、こんな日本に誰がした、一生懸命働いてきた自分達は被害者ではないか、という意識も抜きがたく抱いているのです。

 

戦前の全体主義的価値観が敗戦で崩れた後、戦後民主主義が個人主義を生み出しましたが、その個人主義も限りなく利己主義的に傾き、歪んできていると思われてなりません。

公共的な意識を持った国民が増えてこなければ、野田首相の戦略の実現は難しいのではないでしょうか。

最終的には日本人が自分の中のバルチック艦隊と戦うという構図になります。政治家も官僚も新聞記者も含めてです。

 

野田首相は敵前回頭をしました。隣に立っているのは加藤参謀長と秋山参謀の二役を任された岡田副総理です。

 

やや大袈裟な表現になりますが日本というビジネスモデルをどのように転換していくか、明治以来の重大な歴史的転回点に立っているのではないかと思わずにはいられません。

それぞれの持ち場で「各員一層奮励努力せよ」です。

日本丸にZ旗が上がりました。