価値命題を巡って

 

今月の文芸春秋の日本人のための宗教徹底研究の一つ、「死の床の医師と宗教学者の「感動の対話」」を読み、このような対話があるのか、と強い感銘を受けた。岡部 健氏(医療法人「爽秋会」理事長が死の六日前、宗教学者カール・ベッカーと交わした対話だ。岡部医師は「お迎え」現象について独自の調査を行ってきた。「お迎え」とは臨終に際した人が先に死んだ家族や友人などを目撃する現象を指す。対話の中で心に特に心に響いた個所を挙げてみよう。

・日本人の死生観ではこの世とあの世が地続きで繋がっている(岡部医師)

・人間というのは、所詮は自然界という大きな命の一部であって、そのさらに一部が俺なんだと。(岡部医師)

・日本人は長年の歴史のなかで、過去に幾度となく震災や津波の被害に遭遇して、そのたびごとにそれを乗り越えてきました。先祖とのつながりや、日本人の死生観も、乗り越えるための知恵だったと思います(ベッカー)

・死者やご先祖様に見られているという感覚こそが、日本人の倫理なんです(岡部医師)

人は死を恐れる。しかし根拠のある死生観によって人は死を恐れず、死を超える希望を持つことができる。岡部医師、ベッカー氏の今迄の偏見の視線の下で続けられてきた努力が報われつつある。「死んだらどうなる」これは人生最大の価値命題に繋がる問いだ。

生と死。秋の夜長、先に逝った家族、友人のことを想う。顔が浮かび、声が聞こえてくるようだ。