共感性のある話のために

大勢の人の前で話す時、私の場合、何を話すかを文章化する。時には複数のシナリオをつくる。そしてその内容を何回か口にして覚える。しかしそれはあくまでもプロトタイプで

最終的なものではない。できるだけ、皆さんの前で正式に話す前に、事前に皆さんの間に入って雑談する。話す方も緊張しているが、聞く方もある程度緊張している。「どんな話をするのだろうか。そしてその話は私にとって聞く必要のあるものだろうか」と。それが私にとって話す内容について「自分が用意したAとBとCの3つのシナリオのうち、どれがいいか」を確認するいわばマーケティング作業でもある。そして雑談の後、今日はシナリオBをベースにしながら、ここは削り、ここは膨らまして話そう、と決める。更に話し始めた後も、皆さんの表情を見ながら適宜変えていく。なぜなら、聞く人の心に届くためには、共感性が必要だからである。共感性という関係性の糸を繋ぎながら、緩めたり、ピンと張ったりしながら、話を進めていく。話を聞く人が「私のためにこの話をしてくれている」と思っていただけたら、幸いだ。話すということは共感性の糸を話す者と聞く者の間に張ること。最近そんなことに気付き始めている。勿論、それがいつも上手くいくとは限らない。現実には失敗することの方が多い。ひやひやドキドキしながら、人の前で話すことがこれからも続くだろう。

そしてもう一つ。共感性を作り出すための物語の力。人の前で話す時は一つだけでもいいので物語を話すようにしている。どのように小さな物語をつくるか。それがいつも人前で話す時の私のもう一つの課題だ。