収入・豊かさ・充実感

 

これからの時代、私達は何を求めて生きていったら良いのだろうか。今、パラダイムの転換が始まっているのかもしれない。そしてその転換の先頭に日本が立っている気がしてならない。良く生きるとは良く死ぬことでもある。逆もまた真だろう。既に日本人は経済成長、経済的繁栄がすべてを解決し、救う「神」でないことを知った。京都大学教授、カール・ベッカー氏は今世界が日本から学ぼうとしていると言う。例えば死者との絆。日本人は日々亡くなった人とつながりを持って生活している。これはフロイトに始まる死者のことは忘れよ、という欧米的死生観と全く異なる。また日本人は金銭的報酬を第一とせず、良い仕事のために心を尽くして極めていくという精神を持っている、と指摘する。「人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる」とはイエス・キリストの有名なことばだが、日本人は米粒だけではなく、豊かな精神性によって生きる、と言い換えてみたい。ベッカー氏は日本の食卓で食事をした時、日本人の相手を思いやる態度に「自分は人間としてなんと未熟だ」と痛感したと言う。金銭、物質がもたらす豊かさを否定するものではないが、それが豊かさの全てではない。精神がもたらす豊かさに目を向け、それを取り戻す時が来ている。精神がもたらす豊かさは金銭・物質がもたらす豊かさを質的にも凌駕していると私は考えたい。そしてそこから日々生き抜いていく充実感も生まれてくるのではないか。良く死ぬとは良く生きることでもある。