名前を覚える

加齢と共に記憶力が衰えてきている。これは仕方ないことだ。しかし、私はそれに抗うように、努力していることが一つある。それは他のことを忘れても、名前を覚え、忘れないということだ。名刺を交換する場合はともかく、名刺を交換しない場合には名前を伺うようにしている。名刺を持っている人ばかりではない。先日保育園の保育士の方達と打ち合わせをした時、私は名刺を出したが、保育士の方達は口頭で名前を言われた。その際、私は園長さんの名前は比較的覚えやすかったのだが、あと2人の方の名前が覚えにくかったので、一人の方はどんな字を書くのか、もう一人の方は声が小さく聞き取れなったので、もう一度伺った。3人のお名前は、Sさん、Uさん、Kさん。名前を脳みそに刷り込んだ。そしてそれぞれの方のイメージを名前にかぶせるようにした。Sさんはふっくらとした笑顔の柔らかな人、Uさんは栄養士、ちょっと痩せている、Kさんは中肉中背で目の大きな人・・・、と言う具合だ。
北千住ルミネの屋上菜園で雑談するショップのスタッフ、設備関係のメンテナンススタッフ、清掃関係の人達は皆胸のところにネームプレートを付けているので、それで名前を覚えるようにしている。短い会話、ちょっとした雑談をする時には名前で声をかけて話すようにしている。
「Kさん、今年は棚をつくってスイカを育てますよ」
「スイカづくりが段々うまくなってきたね」
「Kさん、今年は沢山つくりますよ」
「頑張ってください」
Kさんは電気関係のメンテナンススタッフだ。農家に生まれ、早くして父親が亡くなったため、母親を手伝い、子供の頃から農作業に従事した。スイカもつくっていたとのことで
私が北千住ルミネの屋上菜園でスイカを初めて作った時、指導してくれた。「こんな薄い土ではスイカは作れないよ」と言いながらも、スイカの蔓の伸ばし方を教えてくれた。8月に収穫したスイカを見せたら「良くできたね、いい土なんだ」。ほめてくれた。Kさんとはスイカが取り持つ縁でその後、ずっと親しくさせて頂いている。
野菜を収穫した後に出る野菜くずはゴミ袋に入れて1階のゴミ処分場まで持っていく。Sさん、Nさんが気持良く受け取ってくれる。
屋上菜園の栽培管理は館内の多くの人達によって支えられている。特に名刺を交換するわけではないが、互いに名前を呼び合って親しくさせていただいている。
保育園の子供達が屋上にやってくる。その中の一人から声をかけられた。
「阿部くん、何しているの?」
孫のような子供に私は答える。
「野菜についているバイキンマンを取っているんだよ」