売り切らないビジネスモデル

GEのウエルチ会長は1997年のアニュアルレポートで「グローバル・サービス・カンパニー」を唱え、サービス型のビジネスモデルへの転換を図り、過去の「売り切り」スタイルからサービス中心のビジネスモデルへ切り替えっていった。航空機エンジンについては売り切りからリース契約に切り替えた。ここで大事なことはビジネスモデルの転換が顧客にとってもメリットがあることを分かりやすい形で提案したことだ。それは「実際に稼動している時間に対してのみ課金し、故障中は課金しない」という課金システムだ。顧客にとって「買取りシステム」よりリース契約の方がメリットの大きいことをシミュレーションも含め、比較表を作成してGEは顧客に説明したと思われる。リース契約なのでエンジンの所有権はGE側にある。その結果GEにとって今迄できなかったことができるようになった。

1.エンジンのどこが壊れやすいかという情報がすべて把握できるようになった

2.次のエンジン開発に反映させることができた

3.特定の部品は故障の原因になりやすいため早めに交換するようになった

4.エンジンの稼動時間が増えて、リース収入も伸びる結果となった

また顧客側にとってはリース契約に変え、課金システムに変えたことによって、コスト削減ができたが、さらに大きなメリットが生まれた。

1.不具合が検出された場合(エンジン・データをリアルタイムで地上に送ることができるエンジンに取り付けられたセンサーと発信システム)エンジンを搭載したまま、対処ができるようになった

2.その結果オーバーホールする頻度が減り、大幅なコストダウンが実現した

3.着陸次第メンテナンスに取りかかれるようになり、航空会社の定時運行率が劇的に改善した

(以上「なぜあの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編」山田英夫 日本経済新聞出版社を参考にしました。)

このGEの取り組みから私たちが何を学ぶことができるだろうか。

第一にビジネスモデルの構築と転換は顧客にとっても大きなメリット(コスト+サービス)

になることを分かりやすく、きちんと説明して理解、協力してもらう、ということだ。

ビジネスモデルのデザインではこの部分は「価値提案」となっているが、GEの航空機エンジンのケースはこの価値提案を実行している。

第二は売り切らないことによって売上は減少するが、毎月の売上が安定し、顧客との関係が維持できることにより、改善とサービスの向上を常に図ることができ、それが売上と利益の増加につながっていく。売り切りでは顧客との関係は薄くなってしまうが、課金システムというビジネスモデルでは顧客との関係は一層緊密になる

第三は安定的な収入が見込めるため、事業計画の精度が上がり、人員の確保・育成も、資金調達も計画的にできるようになる

かつてのように売上第一主義は消費財の分野では今後とも主流を占め続けていくことだろうが、ブリジストンタイヤのリトレッド事業の例もある。売上から課金システムへ。時代は変りつつある。そういえば「富山の薬売り」は使った薬だけを支払うという課金システムだった。顧客の利便性を考えることがビジネスモデルの基点になることはいつの時代でも変らない、ということなのだろう。