夜の青空と白い雲・2階の物干し台で想うこと

夕食後、涼を取るために2階の物干し場に出て腰を下ろした。直ぐ下の道を人が通っていく。帰宅する帰り道だ。一人で帰る人が殆どだ。家に帰れば家族が待っている人もいるだろうし、ドアを開けて電気をつける一人暮らしの人もいることだろう。私はサラリーマン時代、帰宅する時、何かいつも問題を抱えていたような気がする。遅く帰宅しても何か不安がいつもつきまとっていた。物干し台から遠ざかっていく人の姿を見送りながら、帰り道は一日の疲れを背負ってはいるだろうが、帰宅の道が嬉しい時であってほしいと願うばかりだ。

見上げれば夜空に青空と白い雲が見える。遠い空。いろいろなことを思い出す。人にとって記憶とはなんだろうか、と思ったりする。母は亡くなる前の年の夏、ここで毛布にくるまりながら荒川の花火、それはほんの少ししか見えなかったが、じっと見ていた。その時の様子がありありと母がそこにいるかのように浮かぶ。

元気だった頃の息子は、仕事で疲れた私に気分転換をさせようと将棋に誘ってくれた。日曜映画劇場をテレビで一緒に見た。バスケットのジャンプの練習を部屋の中でもしていた。

それを昨日のように思い出す。私の人生で幸せな時だった。息子に託していた夢があった。

しかし息子は16歳で突然人生を終えてしまった。

夜空の雲はゆっくり流れていく。今夜はいろいろな思い出が押し寄せてくる。それにしても人生にとって思い出とはなんだろうか。哀しみと喜びと後悔。それが一層深くなるのが老年期なのだろうか。しかしそれもこれも流れていく雲。私は青空なのだ。昼も夜も。