小売店のビジネスモデルと超高齢化社会

 

叔父が45年間、小さな洋品店を営んできた。東京の江戸川区にその店はある。45年前店を開いた時はまだ海苔を採るベカ舟が浮かんでいるような一種水郷地帯のようなところだった。美味しいレンコンも採れたとのことだ。私も子供の頃、叔父さん夫婦のところに遊びに行った時、近くの葛西橋でハゼを釣り、おばさんに天ぷらにしてもらった。殆ど入れ食い状態でいくらでも釣れた。開店した頃は近くにそのような店がなかったことに加え叔父さん叔母さんの人柄、商売に取り組む姿勢もあって、店は大いに繁盛した。時代は移り変り、この地域も埋め立てが行なわれ、新興住宅街が生まれ、それに伴いスーパーが進出してきた。その結果、今迄のお客さんがそちらに流れていってしまう、というようなことも起こった。ある時期、叔父さん叔母さんは地元密着的な商売を続ける中で、自分達の店の顧客を絞り込んだ。地域の高齢者の人達を中心とした品揃えとサービスを行なっていこう、と。ビジネスモデル的に言うならば「顧客のセグメント」だ。そして次の「顧客との関係」については顧客との会話を大切にして、時には嫁の悪口を言うお客の話に耳を傾けることもあったとのことだ。会話を通じて顧客のニーズ、暮らしぶりも分るようになった。叔父さんはお客さんの体型、購買履歴を全部頭の中に入れ、お客さんに接していた。

現在お店のある地区でも高齢化が進んでいる。そのため外出がままならない高齢のお客さんが電話で注文してくる。それらを仕入れて、お客さんのところに届けるサービスもやってきた。お客さんは自分のことを良く知っている叔父さん、叔母さんなので電話でも安心して注文できるという訳だ。日本は2020年には3人に1人が65歳以上という超高齢化社会になる。高齢化社会の現在のスーパーとかコンビニは対応できるだろうか。高齢化社会に相応しい小売のビジネスモデルが必要になるのではないだろうか。そのためには規模の拡大とは別の新しい、いや温故知新になると思うが、小売のビジネスモデルの登場が待たれる。規模の拡大を目指さず、ひたすら地元の人々のための商売に徹してきた叔父さん、叔母さん。市場構造の変化が激しい時代を、お店を潰さずに45年間、自営として生き抜いてきたというのは大変なことだ。お二人とも85歳になった。明日で店を閉じることになったが、叔母さんは地元にとって商店街の小売という業態が依然として欠かせないことを訥々と話していた。そこにお客さんがいる以上は。その思いが85歳迄仕事をさせたのだろう。