小説「欅風」と江戸幕府の権力構造 

 

現在連載時代小説「欅風」は53話まできている。そしてしばらく止まっている。54話で書くことを予定しているのは幕府の御料地(天領)桑名44村の建て直しだ。ここまでくるとやはり史実にある程度基づかないと書けないという思いになる。そこでこの間の事情が分かる資料ないしは本が無いものかと探していた。探し方が悪いのだろうが、なかなか見つからなかった。ある日、千代田高齢者センターに行く途中、立ち寄った神保町の古本屋で一冊の本が目に止まった。それが「江戸幕府の権力構造」北島 正元著(岩波書店)だった。ちょっと立ち読みして、参考になりそうな本だとは思ったがなにしろ大部の本で700ページを越す。価格も3800円だった。ということで買うか買うまいか2度ほどその古本屋に行ったが、結局買わずじまいだった。しかし、2日前に買った磯田 道史の「日本人の叡智」を読み始めたのが後押しして、今日千代田高齢者センターで講師代を頂き、ちょっとした自分への褒美を兼ねて、思い切って買うことにした。ついでというわけではないが併せて日本思想体系の二宮尊徳も買った。江戸時代の農政史も勉強しておきたい。さて早速「江戸幕府の権力構造」を読み始めた。いつものように「はじめに」と結論を読む。読む中で、どのようにして江戸幕府の権力構造が出来上がっていったのか、それを主導したのは誰だったのか、またその権力構造には何かモデルがあったのか、あるいは全く新しく構想されたものなのか、思想的背景はなんだったのか、西洋的封建制とはどう違うのか・・・次々と問いが出てくる。そして欅風を書くにあたって、御料地(天領)が江戸幕府にとってどのような役割と重要性を持っていたのか。この問いに対する手がかりを何よりも掴みたい。内容は学問的だが、興味を持って読むことができる。ここで気がついたことだが、もし欅風という小説を書いていなければ、理解中心、知識を得るための読書になっていたことだろう。しかし、小説を書くためにはその中に生きて動く人間を見つけ出さなければならない。天領で生活し、働く人々の具体的姿、表情、会話の内容が知りたい。そんな気持で行間も読むことになる。それが自分なりに見えてきたと思える時、桑名44村の物語が書けるだろう。