幸福と成功だけが人生か・「悲しみ」の日本精紳史

 

地下鉄の乗換駅、飯田橋のブックオフでこの本のタイトルと著者名山折哲雄を見つけたので購入し、早速読み始めた。新書版だ。帰りの電車の中で全21話のうち、4話を読み、その内容の深さに胸を打たれる思いになった。11話 支倉常長の悲劇 15話 叙情する乃木希典 20話 東京だよ おっかさん 21話 敗北を抱きしめた日本人。新書版で少し軽い内容の本かと最初は思ったが、そうではなかった。日本人の本当に深いところにある精神の軸に光を当てる本だった。私が特に衝撃を受けたのは20話 東京だよ おっかさん だった。日本人の精神構造をこの1曲によって見事に描出している。何事につけ真実に肉薄する人間的営為は、喜び、幸福感、成功感というレベルを超えて、人を深い感動、一言で表現すれば「生きていて良かった」という気持に導いていく。この本は私にとってそれこそ居住まいを正して背中を伸ばして読む本ではないか、4話を読んでそう思わされた。山折は新版へのまえがきでハリウッドの映画監督が、アメリカの映画監督の「悲しみ」の感情表現と日本人の映画監督のまったく対象的は演出方法を述べたことを紹介している。日本人監督の場合は悄然とたたずむその人物を風景の中に融か仕込むようなエンディングに持っていく。山折氏は深い悲しみは底知れぬ自浄作用があると最近の思いを吐露されている。悲しみの自己浄化の力は、怒りや喜びなどのとうてい及ぶところではないと。山折氏のこの本は「幸福」と「成功」をキャッチフレーズにして回っているこの日本の現状に対して、もっと深い、もっと価値のある精神の軸があることを教えてくれる。

この本は深い悲しみを経験した人に是非オススメしたい本だ。深い悲しみが分る、それが

本当の日本人らしさかもしれない。料理には隠し味が大切と聞く。深い悲しみと自己浄化

は人生をより良く、深く生きるための隠し味でもあろう。ビジネスモデルをデザインする

場合にもこのことを頭と心の中でわきまえていきたい。