感情労働とスマイル

販売業、接客業の世界は人を相手にしているからだろうか、笑顔の接客が販売員、接客担当に求められる。笑顔に接すると私たちは受け入れられているな、歓迎されているなと無意識の内に感じる。最近電車に乗っていた時、隣の座席にお母さんに赤ちゃんが抱かれていた。お母さんは正面を向いていたが、赤ちゃんは私の方を見て、にこり、と微笑む。思わず可愛いと思う。人間には微笑むという本能というか、生来備わった性質があるようだ。お母さんは気づかなかったようだが、私も微笑みを赤ちゃんに返した。私の知っている女性で、殆ど笑顔を見せない人がいる。笑う時も時たまあるが、何か少し無理をしているような感じがある。なぜかそういう人とはなかなか親しくなれない。

さて微笑と笑いは共通している部分も多いと思うが、微笑は人間関係的、社会的かつ営業的な性格を持っているのではないかと感じている。社会がモノを中心とした経済成長から人を相手にするサービス経済に転換していくと、人とモノとの関係に、人と人との関係が重なっていく。特にサービス業ではその意味では微笑は大きな武器となる。ということで会社は販売員に「スマイル」を求める。これは立派な感情労働だ。話は飛躍するが、新陰流の開祖、上泉信綱は窮地に追い込まれた時、微笑むことを教えたという。それは相手を一歩退かせる効果と同時に自分のこころにも一瞬の余裕を与える。(池波正太郎「剣の天地」より)。通常なら微笑むことなどできない時に微笑む、これも修業の一つかもしれない。販売の現場では勿論休憩時間があるものの、一日中店頭に立って接客する。さぞ疲れることだろう。微笑みを絶やさない販売員には敬意を表さずにはいられない思いだ。