技能集約型農業のビジネスモデル

 

今日の日本経済新聞朝刊「経済教室」に大変示唆に富む記事が掲載されていた。明治学院大学教授 神門 善久氏の提言は「耕作放棄・転用に歯止めを」詳しくは新聞記事を読んで頂きたいが、私は神門氏の提言に同感だ。神門氏の主張の根幹は「日本の特徴に適した農業は『技能集約型』」。ポイントは技能と技術の違い。技術はマニュアル化できるが、技能はできない。神門氏は製造業などと違い、農業は日本固有の変化の多い自然環境の中、自然の生態系の営みの中、農地の状態は人知を超えて刻一刻と移ろう。このような条件の下での栽培活動であるためマニュアルが適用しにくい、と指摘する。そのため、というかその結果、自然を観察し、自然の営みを探求し、融通無碍に対応する技能集約型農業者が日本の農業地帯には生まれた。神門氏はマニュアルが適用しにくいと、と言われているが、地域毎に異なる耕作技能がいわゆる「伝承農法」としてその地域で代々伝えられてきているという部分もある。私自身「伝承農法」については詳しくはないが、マニュアルというよりもセオリーのようなものではないだろうか。やはりセオリーを大切にしながら、変化する自然環境と農地の状態に臨機応変に対応する中で、実際にやってみて体得する、という性格のものではなかったのか。日本の農業者は温暖多雨台風地帯で農業の営みを続けるなかで、まさに複雑系の自然と向き合ってきたのだ。神門氏はそのような農業者を「昔ながらの経験知に頼る古いタイプの名人」と呼ぶ。それでは新しいタイプの名人とはどのような農業者なのか。新しいタイプの名人とは変化の多い自然だけではなく、移り気な消費者の需要に合わせて農作物を生産する、豊富な科学的知識を駆使し、技能を磨き続ける農業者だ。神門氏はこのような新しいタイプの名人に光を当て、そのような新名人が農業地帯に輩出することが日本の農業の未来を創る、と考えている。新名人の特徴は①高度な科学知識+試行錯誤②養成のためには時間がかかる③市場経済での競争力は高い。農業者が耕作技能の修練に専心できるように、そして栽培した農産物が消費者のニーズに合致するような環境づくり、仕組づくり、そしてそれらを支援するための公正な法整備が求められていることを神門氏の提言は教えてくれる。まさに農業分野の日本型ビジネスモデルだ。