支払について

私が父から会社を引き継いだ時、厳命されたことの一つに「支払を絶対に延ばさない」というのがあった。父は昭和24年の会社創業以来、1回も支払を延ばしたことがない。それが会社の憲法であり、また誇りでもある、と。大企業の場合、それだけで社会的信用力があるが、中小企業の場合は、日々の実践で社会的信用を守り、維持していかなくてはならない。父は支払の方法まで具体的に研究し、決めていた。それは学歴の無い父が徒手空拳から事業を始め、それこそ辛い、悔しい思いをしながら一歩一歩信用を築いていった経験から生み出されたものだった。支払には経営者の人格、品性が出る、とも父は言っていた。「お前も気をつけろ。いくら口でいいことを言って支払がルーズでは誰も相手にしてくれなくなる」。それで思い出すエピソードがある。

私の今は亡き友人が仕事上の取引で、知人Tさんの会社から注文を受け、ある商品を納入した。知人Tさんの会社は友人の会社よりずっと規模が大きかった。支払いは末締め、翌月末現金という条件だったが、回収に行ったところ、支払方法は現金ではなく手形だと知人Tさんは前言を翻した。もし現金で支払ってほしいなら手形120日分の金利分を値引きして支払うと言い出した。知人Tさんはそのようにしてのし上がってきた人だった。私の友人は裏切られたような気持ちになって、もう二度と知人Tさんとは取引しない、と決め現金で回収した。

私もTさんのことは良く知っていた。彼の商品仕入れは常に相手に現金を見せて、買い叩くというやり方だった。仕入れの時に現金を見せて安く仕入れようとしていた。それで通用する相手もいるだろうが、世の中には通用しない相手もいる。

私自身、今迄現在の会社をいわば個人会社のようにしてやってきた。父の訓えを守ってやってきたが、改めて支払いの重要性に目を向けて社業の発展に努めていきたいと思わされている。