新技能型人間と技術型人間そして両者の協働

5月10日のブログで神門 善久氏の提言に触れた。氏は日本の農業は「技能集約型」であると説明されていた。農業以外の技能集約型職業として寿司屋の職人を例として挙げている。寿司職人は仕入れから後片付けまで全過程に通じているからこそ「寿司とは何か」を体得できる。ここで職人という言葉に注目したい。ウイキペディアによると職人とは「現在では、手工芸品(特に伝統的工芸品)を作る人や大工左官庭師内装屋、手工芸品以外の例外的なものとしては食品を扱う「寿司職人」、また、特に優れた金属加工技術を有する者を職人と呼ぶ。『―気質』(しょくにんかたぎ)という言葉がある。これは『自分の技術を探求し、また自信を持ち、金銭や時間的制約などのために自分の意志を曲げたり妥協したりすることを嫌い、納得のいく仕事だけをする傾向』、『いったん引き受けた仕事は利益を度外視してでも技術を尽くして仕上げる傾向』などを指す。」

小笠原泰氏は「日本型イノベーションのすすめ」の中で技術者と技能者の違いを次ぎのように説明している。「再現性を志向する「モノ」的な技術者と職人的な1回性(職人の一品物志向)を志向する「こと」的な技能者という、相反する方向性がある。・・・簡単にいってしまえば、「技術」は、基本的に新しいものが良く、勝者は、富士山のように、一人という単一的評価の対象であり、故に、権威主義的になるのです。その一方、「技能」は、新しいものが必ずしも良いわけではなく、勝者は八ヶ岳のように複数という多軸的評価の対象であり、基本的にプライドは高くとも、権威主義的ではありません」小笠原氏は小柴昌俊氏のノーベル賞受賞に貢献したカミオカンデの核となった前代未聞の大型光電管が、浜松ホトニクスの技能者の大きな貢献なくしては実現しなかったと技能者、つまり匠と言われる優れた職人の能力、役割を高く評価している。日本型イノベーションにとって大切なことは技能者の評価を高め、技術者と技能者の融合を計っていくところにあると言われている。神門氏の新しいタイプの農業名人の特徴は、高度な科学的知識を持ち、試行錯誤しながら切磋琢磨していく農業分野の技能者であった。これが理想であろうが、育成のために時間がかかるのが課題だ。もう一つの可能性としては技能者と技術者が相互尊敬のマインドを持ち、パートナーシップあるいはチームを作って、技能と技術を融合・発展させる、というのはどうだろうか。勿論そこには情報技術も関係していくだろう。技能者+技術者+情報技術者が協働できるビジネスモデルを考える時期に来ているのではないか。私にはそう思えてならない。