東洋思想と日本型ビジネスモデル

日本型ビジネスモデルの根底にある思想とは何か。この問いは自動的に欧米型ビジネスモデルを産み出し、支えている思想は何かという次の課題を引き出す。さて単純化して私の考えを述べるなら、日本の場合はやはり東洋思想ではないかと思う。一言で東洋思想と言ってもその内容はインドの仏教、中国の儒教・道教・禅そしてそれらを咀嚼して生まれた、道元などの日本の思想、と幅広い。東洋思想の特徴を一言で表現すれば、「無」と「自他利行」ということになるだろうか。相手優先の考え方があるように感じられる。一方西欧は

「神と自己」ということで神への献身の思いが強いが、それと比例するかのように自己についても強い思いを持っている。神と向き合う自分だ。新約聖書にイエスの言葉として以下のような文をマタイは載せている。

「それで、何事でも、自分にしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにしなさい」

この言葉には2つの問題が潜んでいる。まず自分にしてほしいことを相手に要求している、という自己優先的発想。もう一つは自分にしてほしいことを今度は相手に一方的に押し付ける、相手が自分と同じことを望んでいるかどうかの考慮なしに。

神への献身の強い思いが維持されているうちはいいが、一度それが崩れてしまうと利己主義、個人主義が一人歩きするようになる。一方東洋思想では自分よりも相手を優先的に考える傾向が濃厚だ。飛躍を承知で言うなら、競争よりも共生の思想ではないか。磯田道史氏の「無私の日本人」の中の穀田屋十三郎。そこで紹介されている「冥加訓」の精神は浅野屋という商家を宿場町の救済事業に向わせる原動力となっている。「利己利他」「自己他己」の思想も同じように共生・共存の思想でないか。自分の能力を越えることになるが、日本型ビジネスモデルという木が根を下ろしている大地に東洋的思想が滋養のようにあることを念頭に置きながら、日本型ビジネスモデルのデザインに取り組んでいきたい。