相手の時間と私の時間

 

人の話を聞く時に、仕事として時間を決めて聞くか、あるいは一人の人として聞くか。これは単純な問題に見えるが、実際はどうだろうか。スイスの人格心理学者のポール・トウルニエは最終的には一人の人として聞くことの重要性を指摘している。なぜなら「人間は自らの状況を把握してもらおうと望んでいるが、また同時に自らの人間を理解されることも期待しているからだ」つまり「情報聴取と知的な働きであり、交感は精神的なもの」だから。(「人間・仮面と真実」たとえば、私がある会社の経営者から、相談を受けたとしよう。まず会社の現状を伺い、事業が現在どのように進んでいるか、聞かせて頂く。経営者であれば、何が問題か、それらをどのように解決したいのか、当然考えている。ここで大事なことは、話を全部聞くという姿勢である。私達は通常一人で考えている時よりも、自分の話をきちんと受け止めてくれる相手とコミュニケーションをとりながら話している時の方が、自分の考えを整理しやすい。その意味では、相手から「お話を聞いていただいたお陰で、考えが整理できました。気持も落ち着いてきましたし、何をすべきかも分かってきました。ありがとうございます。頑張ります」で終るコンサルティングが理想かもしれない。相談を受けた私ができること、すべきことは、その事業には価値があること、努力の成果が確かに出てきていることを伝え、「また何かありましたら、いつでもお話を聞かせてください」ということになる。

さて大切なことは情報聴取と交感を一体のものとして行なうことではないだろうか。経営者の性格あるいは状況の切迫度によるが、状況を過度に心配したり、過小評価したりする。いずれも妄想、ということになるので、状況の本当の実寸大の大きさと本質、つまり真実を把握することもコンサルティングにとって重要な仕事になる。真実こそ、問題解決と将来の発展の鍵を握る。その真実の真ん中に経営者と一緒に立つことが「交感」となる。私のイメージは、情報聴取 ⇒真実の発見・把握 ⇒ 精神的触れ合い・支え合い、つまり「交感」だ。そのためには相手が自分の時間を十分に使い切ることがポイントとなる。私がそれを辛抱して、時間を気にしながら、聞いているならば、真実に進むことは難しくなる。相手の時間を優先し、私の時間は補足とする。その結果相手と私の間の時間の全体構造がバランス良く出来上がる。このような2人の会話を第三者が見ていると雑談のように見えるかもしれない。そしてコンサルティングの報酬は相手が決める、と考えてみたらどうだろうか。報酬のポイントはどこまで実行できて、どのような成果が上がったか、だ。

実行するためには、ワクワク感と強いモチベーションがエンジンとなる。