立ち食いそばの思い出

 

まだサラリーマン時代、外国からのお客を成田空港で出迎えるため、日暮里駅で山の手線を降りて、京成電鉄のスカイライナーに乗ろうとした。ちょっと時間もあり、また朝食も軽かったので、立ち食いそばの良い匂いに惹かれ、そばを食べることにした。その時注文したのが月見そば。待つともなく店の若い男の子が「はい、月見そば」と言って目の前に出してきた。それを食べようとしたら、親方の声が制した。親方が若い男の子に注意している。「それは月見そばじゃないだろ。雲の中から月が顔を出しているのが月見だ。オマエのはそばの上の卵を落としただけだ。やり直し」と言って作りなおさせた。たかが立ち食い、されど立ち食いだ。私は内心「どこにでも偉い人がいるもんだ」と思わず親方の顔を見た。職人魂というのだろうか。私は作りなおされた月見そばの月をしっかり見ながらそばを食べた。遠い日の思い出。