経済のV字回復から社会のV字回復へ

 

これからの日本が進むべき道はどういう道だろうか。それはどうも経済的・文明的に繁栄している国ではなさそうだ。経済中心の繁栄が何をもたらすか、日本人は夢から覚めたような気持で現実を眺め、「こんなはずではなかった」と思っているのではないだろうか。社会の重心を形成していた中間層が2極分化し、格差は拡大、世界にも例を見ない急速な少子高齢化、人口の減少、30兆円を越す社会保障費と財政危機。イメージとしては「沈みつつある日本」だ。しかしピンチはチャンスだ。米国のジャーナリスト、ダグラス・マグレイは02年日本には建築やゲーム、音楽、和食など経済指標では表せない文化力があり、これを国力とする「クロス・ナショナル・クール」(CNC)を目指すべきと指摘した。私はこれに是非日本の自然力を加えたいと思う。写真家白川義員の日本の風景、富田文雄の日本の里の写真集を見ながら、今更ながらに日本の自然の美しさ、神が宿る自然と共に生きてきた日本人の暮らしの有り様に心を奪われる。欧米的な進歩史観は自然を人間の生活を豊かにする無限な「物質的」資源として利用してきた。そして現在、石油などの化石燃料は有限であり、文明社会の日常生活、経済活動は環境負荷が高く、いずれ環境破綻をもたらすことに気がついた。50年後、日本の総人口は8700万人弱になると予測されている。現在1億3000万人。江戸時代は3500万人だった。であるならば、日本の選択は文明の縮小、文化の拡大ではないだろうか。文明の縮小には勇気と叡智が求められる。文化の拡大には高度共感社会、高度共創社会、高度相互扶助社会の在り方の設計図が求められる。私は日本人が底力を発揮すれば「できる」と考えている。文明の縮小、文化の拡大をモデル化することは何も日本のためだけではない。経済成長の次はどのような社会がありうるのか、日本は世界に魅力的な、希望が持てる選択肢を与えることができる。先週ある会議の後で、日本の観光客をどうやって増やすかという話題が出た。イスラム教の人も安心して食べられる和食を準備し、アラブ諸国の人々に日本の自然の美しさを是非見てもらいたいと思う。人の感受性は自然から大きな影響を受ける。世界では文明と宗教の対立・衝突がますます深刻になっている。政治力も軍事力もある時は必要だろうが、対立・衝突を避け、真の和解をもたらすものは文化力と美しい自然の力ではないだろうか。世界的な高度相互扶助社会の在り方だ。互いの固有性と価値観の違いを認め合いながら、更に高いレベルの価値観の共有を目指したい。