自分が光になるためには
カフェでコーヒーを飲んでボンヤリしていた時、後ろの席で2人が話しているのが聞こえてきた。老年の男性同志だ。仮にNさんとYさんとする。
N「暗い話題が多くて嫌になっちゃうね、何か嫌な時代になったな」
Y「全くだ。介護に疲れた夫が妻を殺したり、近所の若い男に子供が殺されたり・・・
一体どうなっているんだ、って言いたいね」
N「世界を見てもイスラム国が日本もターゲットにしてテロを行なうと宣言したり、本当に物騒な世の中になったもんだ」
Y「この間NHKのクローズアップ現代でトマス・ピケティがインタビューに答えていたが、日本も含め世界中で格差が拡大すると社会が分裂し、予想もつかないような不安定な状況が生まれてきそうだ」
煙草の煙が流れてくる。二人とも暫く黙っていた。
Nさんがぼそっと呟いた。
「俺たちが一生懸命働いてきた結果がこれだとは・・・何とも皮肉だよ」
Y「俺たちはこれから老年性ウツに気をつけないとな。定年退職後の年金生活はもう少し楽しいもんだと思っていたが、何かそうでもないなあ」
N「この間ある本を読んでいたら、暗い時代だからこそ自分が輝くんだ、と著者が言っていたが、俺は無理だね。自分の中に輝くものなんか、無いよ」
Y「自分が輝く、か。輝くというところまでは行かないが、一隅を照らす、ということはできるかもしれないな」
N「照らすためには光源が必要だ。例えばロウソクのように廻りを照らしながら段々短くなって、燃え尽きて最後は消えていく」
Y「そうか、照らすということはそういうことかもしれないな。分ったよ!」
N「何がわかったんだ?」
Y「詳しい話は飲みながらしよう、いつもの酒場でどうだ」