賃金と人材投資

 

23日のブログで、国民の実質所得を上げることが経済活動を活発にするために重要であることを指摘し、企業に賃金を上げる勇気を求めた。25日の日本経済新聞朝刊に、2013年度税制改正大綱のポイントという記事が掲載されていたが、その中で「企業向けに給与増を促す税制」が盛り込まれている。内容は「平均給与などを増やした企業に対し、給与増加額の1割を法人税から控除する」というものだ。1万円給与を増やしたら、千円を国が負担するということだろうか。せめて3割ぐらいは欲しいところだ。さて2000年以降、従業員5名以上の全産業の事業所で雇用されている常勤、パートタイマーを合わせて月額平均現金支給給与総額(名目賃金指標)とそれを消費者物価で割った実質賃金指標では、名目賃金は00~12年の間に10%近くも低下している。しかしこの間デフレ経済が続いたため実質賃金は6%の低下に留まった。ところが現在喧伝されているアベノミックスではインフレ2%のターゲットが設定されており、実質賃金の上昇がないまま物価が上昇するようなことになれば、実質賃金の一層の減少が見込まれ、経済の活性化は絵に描いた餅になる恐れがある。現在すべきことは短期的な効果を狙った公共事業より、雇用の創出と人材投資と研究開発への大胆な投資だ。IPS細胞だけでなく、世界的に優れた技術開発力を持っている日本人は数多くいると思う。ステントグラフトの世界的権威である大木隆生氏(東京慈恵会医科大学血管外科教授)は米国での年収1億円以上を捨てて、年収800万円の慈恵医科大学教授になった。大木氏は言う。「やっぱり僕は、同胞である日本人の患者を治療したいし、お金で買えない仲間のたくさんいる母校に貢献したい。だから、米国の1億円よりも、慈恵医大の800万円にやりがいと感じました」(エコノミスト 1/22)私個人としては年収2000万円ぐらいは差し上げても、と思う。危機に直面している日本のために貢献したいという若い才能は私達の想像以上にいるのではないか。日本で活躍したいと思っているポスドク(博士課程終了者)の思い切った待遇改善も必要だ。先進的技術の開発、プロダクト・イノベーションを推進するコンセプト・プロデューサーの育成。今日本は高度な人材のために、集中的に限られた資金を使うべきだ。