10月4日(土)江戸時代の経営コンサルタント

徳川の幕藩体制下、日本全国は300の藩に分割された。まさに「分割して統治せよ」の原則を地で行っている。随分細かく分けたものである。従い藩と言っても10万石以下の藩が多数を占めていた。藩は十割自治、どんなに小さな藩でも自分の力で生きていかなければならなかった。これに幕府からの普請、賦役が強制的に課せられる。さぞ、やりくりが大変だったことだろう。幕藩体制は石高制を基礎としている以上、稲作中心の産業構成となり、新田開発が各藩で盛んに行なわれた。しかし農民の再生産に必要な入会地などが開発され、不足していったため飢饉の頻発・農村の荒廃が進んでいったと言われる。稲作中心を維持しつつも、財政の窮乏を解決するために各藩では特産物の生産に力を入れるようになったが、必ずしも成功したわけではなかった。このような困難な状況の中、藩の中では財政を預かる経済官僚が実権を握るようになっていった。経済が戦場になったのである。武器が刀槍から経理感覚、徴税力に変っていった。想像するのだが、一万石から5万石未満の藩では経済運営がさぞ大変だったことだろう。結局皺寄せは年貢増徴となり、領民を苦しめた。

現代に例えれば、小藩は文字通り、小・零細企業に相当する。今回私が書いている時代小説「欅風」のモデルは河内の狭山で、後北条の藩である。慶長19年(1614)には1万1千石、寛文4年(1664)には1万石の零細藩である。そのような藩が明治維新迄どのようにして生き残っていったのか、フィクションの形で書いているのが「欅風」であり、現在の世の中に対する私なりの思いも込められている。

「欅風」はあと3話を書いて完結するが、もし将来、また時代小説を書く機会があれば、私は江戸時代、商品経済・貨幣経済が浸透し、日本全体の経済のあり方が変っていく時に、小・零細企業である小藩の財政基盤の建て直しに寄り添った当時の経営コンサルタントを主人公にした小説を書きたいと思い始めている。自分の藩は自分で守る(自分の会社は自分で守る)、その気概と具体的な方策、そして男のロマンを描ければいい。