BMW物語・ビジネスモデル的「再定義」

高級車BMWの究極の大失敗と再建への道のりを描いたデビット・キーリーの「BMW物語」はビジネスモデル的にも貴重な教訓を与えてくれる。ポイントはターゲットカスタマーと提供価値(価値提案)の再定義だ。ビジネスモデルをデザインする場合、顧客セグメントと価値提案が最重要の2項目となる。しかし社会は変化し続ける。従いこの最重要の2項目については常に外部環境である社会の変化の中で絶えず見直して、「進化」させていかなければならない。これを怠るとビジネスモデル自体も陳腐化し、劣化していく。ビジネスモデルも「生き物」なのだ。1990年代のBMWの経営陣はビジネスモデルのこの2項目の再定義を疎かにしてローバー・グループを買収するという方針を採った。その結果ターゲットカスタマーからそっぽを向かれ、32億ドルもの損失を計上して5人の幹部が辞職した。その後、BMWは社会の変化に合わせてターゲットカスタマーと提供価値を再定義して、ランドローバーをフォードに売却した。鍵となったブランドイメージは「洗練」と「チャレンジング」。提供価値のコアにあたるブランドイメージの再定義が経営陣に自信を回復させ、利益性も取り戻すことができた。この再建の立役者のヘルムート・パンケ社長はBMWのブランド力に立って、明言している。

「BMWというブランドは、個々のクルマを魅力あるものにするという約束の上に成立っている。・・・退屈な車など作らない、というのも約束の一つだ」

提供価値(価値提案)に徹底的にこだわり続けること、社会の変化に合わせて再定義を続けていくこと・・・これは何もクルマの業界に限ったことではないはずだ。